怪盗ルパンシリーズ 「三十棺桶島」

三十棺桶島

この本の作者 モーリス・ルブラン

南 洋一郎(訳)

この本の成立年 1919年 発表
この本の巻数 1巻
入手のしやすさ ★★★★☆
未成年推奨 ★★★★☆
総合感銘度 ★★★★☆

血沸き肉躍る 南版 ルパンの大冒険

怪盗紳士、アルセーヌ・ルパンと言えば、日本でも大変人気が高いダーク・ヒーローです。

石川五右衛門やら鼠小僧治郎吉やら梁山泊の108の好漢やら、日本人はとかく義賊を好む傾向がありますが、このフランスの大泥棒は特に好かれているような気がします。

日本人が愛しているルパンは、ひょっとしたらモンキーパンチさん原作のアニメ「ルパン三世」の主人公かもしれませんし、または児童書に登場する正義感に満ちた怪盗紳士アルセーヌ・ルパンかもしれません。

ところが、原作のルパンは結構コワモテ・キャラで、時と場合によっては相手を痛めつけることも厭わない、アウトローそのものといった印象です。あと美女が大好き。恋愛についてもかなりやり手な人物です(笑)。

ですから、もし原作を子供さんに読ませるとしたら、ちょっとキツイかもしれませんね。また文章が大人向けのため、子供さんらがやや難しく感じることもあり得ます。

しかし、この面白さを若いうちに知らずにいるのはあまりに勿体ないでしょう。

となれば、昔の学校の図書室には必ずあった(今も?)「怪盗ルパン全集」に手を伸ばすしかありません。実は私も、このシリーズからルパンの世界に入りました(泥棒になったという意味ではないですよ笑)。当時、図書室から借りて、家で夜遅くまで読んでいたことを思い出します。それくらい面白かったんです。

嬉しいことに、21世紀に入ってポプラ社さんが当時の装丁のまんま、このルパン・シリーズを全冊復刻してくれました。

ポプラ社さんは、ほかに江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」も復刻してくれまして、かつて図書室に入り浸っていた者としては感謝の言葉しかありません。

このルパン・シリーズと乱歩シリーズは、ともに子供向けを謳っているのですが、表紙の絵とかめちゃくちゃ怖いです。

また、作中で使われている言葉や設定なども、現代なら大人向けであっても問題作扱いされるような(差別表現バリバリ)シロモノです。昭和って、結構こういうものに寛容で、また過激さを求めるような時代だったんだなあ、と思います。

で、ルパンの方なんですが、原作の忠実な訳ではなく、翻訳者の南洋一郎さんの脚色がかなり入っています。大人な展開は大幅に変更され(恋愛シーンなど)、ルパンはより英雄チックに描かれています。それでいて、ところどころ少年少女にはどぎついような表現も厭いませんから、そこが破天荒な魅力につながっているような気がします。

どれも無類の面白さで、出来れば全作品紹介したいのですが、今回はその中から「三十棺桶島」をとりあげます。

この作品、あまりルパンは登場しません(笑)。

そして、「八つ墓村」を想起させるような、全編を通してとてつもない不気味さに満ちています。

あらすじは、不幸な結婚から立ち直りつつあったヒロイン、ベロニク・デルジュモンが、偶然目にした「サイン」をきっかけに、死んだと思われた実父と我が子を追い求め、「三十棺桶島」に渡る、というもの。そこで彼女を待ち受けていたものとは…!?という感じでストーリーは進んでいきます。

それにしても、閉鎖的で陰湿な村、不気味な予言、怪しい僧侶、地下牢、大量殺人、といったホラー調ミステリのあらゆる材料がこれでもかと出てきます。

ですから、先へ進めば進むほど、恐怖感は高まります。ただ好奇心をくすぐられるので、先を読まずにはいられない。こういうところ、ルブランも南さんもすごく巧いです。

なお、最後の一番美味しいところでルパンがびっくりするような登場の仕方をします。そして明かされる謎の石の正体。

種明かしはしませんが、ルブランがいかに時代のニュースに敏感であったか、感心させられるラストです。

この作品の面白さに久しぶりに痺れた私は、シリーズ全巻を集めてしまいました。家族は呆れています。

でも、それくらい面白いこと請け合いなんです。ぜひご一読を。

なお、大人向け、すなわち原作もご紹介しておきます。南版を読んだ後、比較でこちらも読むのも一興でしょう。

松本清張の徳川家康

徳川家康

この本の作者 松本清張
この本の成立年 1982年 刊
この本の巻数 1巻
入手のしやすさ ★★★★★
未成年推奨 ★★★★★
総合感銘度 ★★★★☆

昭和の文豪が書いた家康の生涯

あの松本清張が書いた、徳川家康の伝記です。しかも、児童向けに書かれています。

この本は、私が小学生の頃(と言いますからはるか昔です)にはすでにあって、他の講談社火の鳥文庫(織田信長やら源義経やらシューベルトあたり)に比べると、ちょっと難しい印象がありました。

それでも、すごく読み応えがあって、格調が高くて、中学生や高校生になっても何度も読み返したのを覚えています。

ところで、家康の生涯を徹底的に描いたものと言えば、これはもう誰が何と言おうと山岡荘八の「徳川家康(全26巻)」に指を折るわけですが、当作 は読むこと自体が大変です。途中挫折しかねませんし、根気強く読んでも相当の時間を要します。

それに比べると、この清張版は家康の生涯を簡潔にまとめ上げ、またその人となりを客観的に鮮やかに描いており、1冊の中に詰まっている内容は実に濃厚です。

自己犠牲に散った鳥居元忠の話なんて、とても感動的ですよ。

豊臣氏を亡ぼした悪印象から、家康の家臣は謀臣揃いのように思われがちですが、古参の元忠の覚悟と家康の悲痛な心境の絡み合いを描いたこのシーンは、徳川方だって決して安泰ではなく、命をもって大志を貫かなければならない過酷さをひしひしと伝えてくれます。

それに対して、天下統一後。家康がうまうまと舶来の天ぷらを食し、呆気なく亡くなってしまうラストは面白かった。このあたりは、清張らしいブラックユーモアを感じるような筆致で、さすがだなと思いました。

松本清張の作品と言えば、「鬼畜」とか「西郷札」、「小説帝銀事件」のようにほんと、面白くてしようがないものがたくさんあります。それらに比べると、児童向けのこの作品はあまり知られてこなかったのですが、大人の方もぜひ読んでほしいです。また、子供さんも家康の忍従する気概、冷静な知略といったものを読み取ってほしいと思います。

ちなみに、家康関係でひとこと。

東京の浜松町駅そばに増上寺というお寺があります。

ここは徳川家の菩提寺であり、二代秀忠公、六代家宣公、七代家継公、九代家重公、十二代家慶公、十四代家茂公の、六人の将軍の墓所が設けられています(家康は東照宮に祀られていますが、葬儀は増上寺で行われました)。

私も過去にここを訪れましたが、本堂がすごく広くて、裏に立派な墓所があり、また様々な資料が展示されているなど、みどころ満載でした。

 

 

 

 

写真をご覧のとおり、増上寺の隣にはスカイツリー以前、東京の高層建築のシンボルであった東京タワーがそびえ立っています。すなわちかつては、多くの人で賑わう有名スポットでした(といっても、今は人通りが閑散となったというわけではありません)。場所としては分かりやすく、羽田空港から終点・浜松町駅で降りればすぐのところにあるわけです。

江戸時代という泰平の時代を築き、統べた徳川家のことを知るには欠かせない場所です。

ぜひ、一度は訪れることをお勧めします。