岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第4回)

岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第1回)

岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第2回)

岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第3回)

岩波文庫解説目録2022に掲載されている、青帯(日本思想)の3作品を紹介します。

今回は幕末の非常に有名な3人についての著作です。

まず青50-1は、桜田門外の変で生涯を閉じた大老・井伊直弼(1815年 – 1860年)の「茶湯一会集・閑夜茶話」。井伊は武骨で堅物な政治家のイメージがありますが、文武両道に秀で、茶道にも傾倒していました。この2作では、茶道におけるひと通りのしきたりが書かれているだけでなく、井伊の茶会に対する真剣さも色濃く表れており、前回触れた柳生宗矩の「兵法家伝書」に通ずるものがあります。

井伊直弼の肖像画

私個人は、現代の日本人が疎かにしているものがこの本の中にあり、かつ幕末の日本の存亡がかかった時代に逃げず、大きな判断を下した井伊の気概をひしひしと感じました。

続いて、江戸城無血開城に大きな役割を果たした勝海舟(1823年 – 1899年)へのインタビューをまとめた巌本善治(1863年 – 1942年)の「海舟座談」。

勝海舟は非常に有能な幕府官僚で、官軍と幕府軍の切羽詰まった直接対決の中、江戸城下での市街戦と言う悲惨な状況を得意の根回しでギリギリ回避した、日本史における指折りの偉人です。さらに、両軍をおもちゃにし、日本を占領しようと巧みに立ち回っていたフランス、イギリスの動きをけん制し、後の日本海軍を立ち上げ、整備するという偉業も成し遂げました。

勝海舟

その一方、憎めない性格とおっちょこちょいなエピソードにも事欠かず、またイケメンでもあったことから、後世の歴史ファンから絶大な人気を博している人でもあります。

そんな海舟には二つの回想録があり、ひとつは吉本襄による「氷川清話」。もうひとつが巌本善治による「海舟座談」です。

読んでみられると分かりますが、海舟の話し方の特徴が克明に記録されています。そして話の中に出てくる人物が、我々が教科書で知っている偉人ばかりなのに、それが友人や近所のあんちゃんのように語られるので、読んでいて可笑しくってなりません。明治維新の生々しい裏側に興味があられる方には、ぜひ読んで頂きたい本だと思います。

最後は青101-1、「西郷南洲遺訓」です。言うまでもなく、西郷隆盛(1828年 – 1877年)について書かれた本で、旧出羽庄内藩の関係者が西郷から聞いた話をまとめています。

最初に言っておきますが、読むのに非常に苦労する本です。まず、岩波によくあることですが、フォントが古い活字。そして、漢字は旧字体でカナは歴史的仮名遣い。おまけに文語体ときています。高校で古文漢文をある程度読みこなしていた人でないと、結構苦痛かもしれません。

※どうしても現代語訳が読みたいという方にはこちらをお勧めします。

それでも、肖像画さえまともに伝わっていない謎に包まれた、それでいて日本史の転換に大きな役割を果たした西郷の肉声を伝える唯一の書であり、彼が何を考え、あれだけの大事を成し遂げたのか、身に染みてわかります。本当に素晴らしい金言のオンパレードで、現代を生きる我々も、世の不条理に打ちひしがれ、やりきれなさを感じる際には、ぜひ手に取るべき名著だと思います。

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