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数多くの出版社から登場したホームズ
1980年代くらいまでは、シャーロック・ホームズ・シリーズと言えば、前回お話しした延原謙の訳による新潮社版が定番でした。
しかし、今日では様々な新訳が出版され、同じ原作なのに全然味わいの違うホームズを幾つも楽しめるようになりました。
例えば、光文社文庫の日暮雅通(ひぐらし まさみち、1954年 – )さんによる翻訳。2006年出版ですが、当時は日暮さんも52歳と若く、延原訳が格調高いもののやや読みにくいと感じた方にはベターです。
日暮版は丁寧な注、そして『ストランド』誌に掲載されたシドニー・パジェットの挿絵をふんだんに引用している(電子書籍版では割愛)ところが特徴。
ちなみにパジェットの挿絵とは、下のようなものになります。
先程、日暮さんの訳は延原版に比べて読みやすいと書きましたが、それでも後述の他のヴァージョンに比べると、いちばん延原版の雰囲気に近い。すなわち、情景描写や登場人物の個性がヴィクトリア朝のイギリスを彷彿とさせる、ある意味、スノッブめいた雰囲気を感じさせ、従来のホームズ観を重んじる方にはお勧めできる訳、と思います。
そうした延原、日暮版に比べて、かなり現代風に寄せてきたのが、角川文庫版です。
さすが角川と言うべきか、表紙から角川流。
劇画調のめっちゃイケメン・ホームズに激渋ワトソンw
とはいえ、肝心の文体やセリフは変にくだけ過ぎるようなことはなく、ただ延原訳を知る者には、あっさりスッキリしたものに仕上がっています。延原訳で挫折した方には、かなりサクサク読めるのではないでしょうか。
あと、他のサイトでもよく比較される部分でもあるのですが、ワトスンの一人称が「ぼく」、となっているのが非常に珍しいと言えます(一般的には「私」が用いられます)。
大事なことを言い忘れていました。
角川文庫版には訳者が二人います。「冒険」のみ石田文子さんが手がけられ、あとは全て駒月雅子さんが担当されました。駒月さんが「事件簿」でシリーズを完結させたのが2021年ですから、出来立てホヤホヤの新訳と言って良いでしょう。