岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第6回)

岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第1回)

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岩波文庫解説目録2022に掲載されている、青帯(日本思想)の福沢諭吉関連3冊を紹介します。

前章で福沢諭吉(1835年 – 1901年)が遺した有名な著作群について解説しましたが、今回は彼の様々な論文・手紙を集成した3冊をご紹介します。

まずは、「福沢諭吉教育論集」。

慶應義塾大学や一橋大学を開校したことからも分かりますが、彼の教育に対する熱意は尋常なものではありませんでした。というより、福沢のことを日本の教育の父と言っても良いくらいです。

「一身独立して一国独立す」という彼の信念はすなわち、日本が近代国家たるためにはまず国民が力をつけねばならぬこと。そのためには西洋の進んだ学問を良く学び、旧い儒教的思想に囚われた日本の教育をアップグレードしなければならない。というものでした。

儒学への批判はすでに江戸中期、例えば本居宣長(享保15(1730)年 – 享和元(1801)年)のような国学者を中心に展開され、維新後には尊王攘夷の原動力となった訳ですが、福沢は攘夷派と一線を画し、さらに西洋に学ぶことの重要性を説いたところが先進的だったと言えます。

また、男女平等に真正面から向かい合う「日本婦人論後編」「男女交際論」を収めた「家族論集」も面白い。昭和ですら、女性の権利を主張するのは大変だったのに、まだ武士がうようよいた(女性の参政権もない)時代にこうした主張をした福沢はすごいです。

それでも、昨今の一部のジェンダー論に見られるような、ある種攻撃的で排他的な雰囲気はなく、からりとした文章なのが彼の良いところ。また彼の主張は、封建的な家族関係を壊し、個人の独立を促すところ=「国益」に帰結しますから、今日のジェンダー論とはかなり異なると思います。

そんな進歩的な福沢の交遊録、手紙を集めた「福沢諭吉の手紙」も面白いです。相手は伊藤博文・板垣退助・井上馨・大隈重信・岩崎弥之助と、近代日本史のオールスターと言った顔ぶれ。やはり、当時のエリートは互いに交際し、己を高め合ったということでしょう。

ハッキリ言って、これまでの著作で随分エラソーに思想を述べていた福沢諭吉の人間臭さ、弱さみたいなものが思い切りぶちまけられていて、大変読みごたえがあります。また、そんな諭吉を寛容に受け止めていた明治の元勲たちの懐の深さというか、激動の明治維新を渡ってきた者同士の関係のようなものも読み取れて、本作は大変貴重な史料と言えるでしょう。

 

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