才媛・一葉の生きた証を知る
まずは、一葉記念館の中に入ってみましょう。
趣のある建物の外装を楽しみながら中に入りますと、すぐ正面に受付があります。
さっと入場券を貰って、写真撮影についてスタッフの方に質問しますと、紹介パネルなどが中心となった1階はOK。それ以上の階はNGということでした。
パネルでは、一葉の生涯についての大まかな年表の他、樋口家の歴史についても紹介されています。
さらに、長谷川清・画伯による、一葉女史宅の雪の朝という絵も飾られていて、龍泉寺で商いをしながら、雪の冷たさにも負けない一葉の強さが伝わってくるような印象を受けました。
さて、2階にあがると、何やらイベントが・・・。
【一葉と錦絵~歌川派の絵師 楊州周延が描いた「別れ霜」挿絵と錦絵の世界~】
ここに名を連ねる楊州周延(ようしゅう ちかのぶ)は、天保9(1838)に生まれ、大正元(1912)年に歿した、江戸末期から明治にかけて活躍した浮世絵師です。
天保年間と言いますと、歴史の教科書に出て来るほど有名な「天保の改革」が行われ、また、大塩平八郎の乱が起きたりもしています。江戸時代の長い繁栄が経済を中心に綻びを見せ始め、不穏な空気が漂い始めた頃と言って良いでしょう。
周延はこのような動乱の時代に生れ落ち、幕末の喧騒からご一新、文明開化、急激に変わりゆく街の様子などをしっかり目に焼き付けながら、日本が大国ロシアに勝利した明治末期まで浮世絵を書き続けたという人で、その衰えぬエネルギーには思わず敬服してしまいます。
周延の作品には有名なものがたくさんありますが、江戸時代の浮世絵よりも、明治時代に量産した錦絵の方が現代では多く知られているかもしれません。下の「征韓論之図」など、きっとご存知の方は少なくないと思います。
さて、その周延と一葉に何の関係があるのか?という疑問ですが、一葉は明治25年4月5日から18日にかけて、改新新聞に「別れ霜」という作品を〝浅香ぬま子〟のペンネームで連載しており、その時の挿絵を担当したのが周延でした。
「別れ霜」は、ある若い男女が親の身勝手で仲を引き裂かれ、男の方が零落するも後日、女と運命的な再会をし、結果的にはふたりとも非業の死を遂げるという、日本版ロミオとジュリエットと言いますか、文楽的な香りも濃厚にする佳作です。
会場には、別れ霜のストーリーを複数のシーンに分け、丁寧な解説パネルとともに、周延の迫力ある絵と一葉の美文を刻み付けた当時の改新新聞がところ狭しと展示されていました。
それにしても、いくら小説とはいえ、何ともひどい親と周囲の人たちですね。今どきこんなことをやったら、子供たちから告訴されるかもしれません(笑)。でも、昔の日本って、本当にこういう感じだったのかもしれませんね。ある意味、人間らしいと言いますか……。
とにかく面白い催しでした。感情移入するほど一葉の世界に入り込めて、有意義でした😅。
そんなこんなで特別展の会場を出ますと、向かい側には常設展が…。それにしても、実にコンテンツが充実した記念館ですね。来た甲斐があります。
そちらには、若き一葉が才能を炸裂させた歌塾「萩の舎」時代の史料。商売をやっていた頃の着物。そして傑作「たけくらべ」の自筆原稿が展示されていました。
私は以前から、一葉は紫式部よろしく、真っ白な巻物に作品を書きつけていたと思い込んでいたのですが、普通に現代と変わらぬ原稿用紙を使用していたんですね。ただし、かなりの達筆。さすが才女です。
ちなみに、この「たけくらべ」の原稿は、台東区文化ガイドブックホームページでも見ることができます。
さて、最後は3階ですが、こちらは「一葉のその後」を辿るテーマ付けがされています。
一葉は24歳で肺結核により、その短い生涯を終えました。
その後、大橋乙羽という人の手で「一葉全集」が出版されますが、一葉の友人で作家の斎藤緑雨がさらに厳密な校訂版を刊行し、今日我々が一葉を正しい形で読める土台を整えてくれました。ちなみに緑雨は生前、大変気難しい人物と言われていましたが、恋愛抜きで、一葉の良き友、良き相談相手であったそうです。さらに余談ですが、緑雨は「ギヨエテとは おれのことかと ゲーテ云ひ」という不滅の川柳を遺したことでも有名です。
記念館には当然、この一葉全集が展示されています。そして、最後は5千円札で展示が終わります。
何だか時間が経つのを忘れてしまうくらい楽しく、充実したひとときでした。
さて、一葉記念館は、2017年6月現在で、営業時間が9時~16時。最終入館は16時になっています。
定休日は月曜日ですが、祝日の場合は翌日。 年末年始と特別整理期間等もお休みになりますので、サイトやお電話で確認された方が良いと思います。
なお、入館料は大人が 300円、小学生・中学生・高校生が100円となり、さらに20名以上の団体となれば割引がかかります(障害者手帳提示者およびその介護者は無料)。非常に良心的な価格で嬉しいです。
お土産も充実しており、楽しいこと請け合いの一葉記念館。遠方の方のみならず、東京近郊の方でまだ行かれたことがない方はぜひ、来館されることをお勧めします。