岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第10回)

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岩波文庫【青】 解説目録2022を辿る(第9回)

岩波文庫解説目録2022に掲載されている、青帯(日本思想)の3冊を紹介します。

今回は、岩波青帯の中でも昔から人気の高い3冊を紹介します。

1冊目は「茶の本」。著者は岡村覚三とありますが、彼が頻繁に用いた岡倉天心の名の方が、皆さんご存知でしょう。

岡倉天心、本名・岡倉覚三(1863年2月14日(文久2年12月26日) – 1913年(大正2年)9月2日)は、横浜生まれ。当時、藩命で武士を辞めて貿易商に転じていた岡倉勘右衛門の子として出生し、子供の頃からハイレベルの英語教育を受けました。

岡倉天心

のちに、東京開成所の講師であったアーネスト・フェノロサの助手となり、彼の下で日本美術の素晴らしさに開眼。彼はフェノロサとともに、明治時代にバラバラであった我が国の絵画、彫刻、建築物などを日本美術として研究、再構築し、国内や西洋にその素晴らしさを紹介しました。

そんな岡倉が、明治39(1906)年に英語で著し、アメリカで出版したのが「茶の本」です。

全体のボリュームは薄いのですが、英語で書かれているだけに、しかも精神的な奥行きの深い「茶」の世界を説いていることもあって、真の理解が難しい。訳者の個人的思考に引き摺らてしまいかねない危うさも持っています。

そのタイトルや、千利休の逸話・切腹話が多いことから、「茶道」について説きおこした本とも思われがちですが、実はハラキリで欧米に認知されていた当時の日本人の偏ったイメージを崩すため、欧米でも飲まれている「茶」を引き合いに出し、理解を求める意向で執筆されました。

7章から成り、一杯の茶の中に凝縮された日本特有の美意識や世界観を浮かび上がらせる内容は、後述する新渡戸稲造の「武士道」と共通するものがあります。

次は、1888年に出版された「新撰讃美歌」。プロテスタント系の日本基督一致教会と日本組合基督教会が選任した委員、植村正久、奥野昌綱、グイド・フルベッキ、松山高吉、宮川経輝、田村初太郎によって編纂されました。

古めかしい言葉が用いられていますが、現在、プロテスタント系学校の礼拝で歌われる歌詞もほぼこんな感じです。すなわち、この著作は以後の日本の讃美歌の基礎となりました。

岩波文庫の扉文には、「島崎藤村や国木田独歩などの日本近代文学、ことに新体詩や浪漫主義を生み出す源泉となった」とありますが、まさに明治大正のロマン性高い独特の文章の嚆矢となったことは、一文一文を読めば疑いないことでしょう。

最後は、新渡戸稲造(文久2〈1862〉年~昭和8〈1933〉年)が著した「武士道」。これも「茶の本」同様、英語で書かれたもので、1899(明治32)年にフィラデルフィアで刊行されました。

新渡戸稲造と言えば、つい最近まで5千円札のおじさんだったので、知らない人はいないと思いますが、では何をした人かと言えば答えに窮する人が少なくないと思います。

新渡戸稲造

新渡戸は、キリスト教に根差した教育者、思想家として多くの功績を残した人で、国際連盟の事務次長も務めました。外国の圧力に屈せず、また太平洋戦争に向け力を強める軍部に対しても一歩も引かなかった硬骨振りは、時代を考えると凄いことだと思います。

しかし、新渡戸の功績は「武士道」を著したことが全てだと言っても過言ではありません。

この著作は英語で書かれ、アメリカで出版されたため、世界中で大きな反響を呼びました。また、わが国に逆輸入されて以降、令和の今日に至るまで度々メディアで取り上げられるなど、日本人にとっても大きな意味を持つ作品であり続けています。

そもそも長い鎖国が解けたばかりで、ちょんまげを結って和装に刀を差している日本人がどういうものなのか、外国人にとっては長く謎であったでしょう。その日本人の本質を流暢平明な英文で解き明かした「武士道」は、まさに衝撃的で外国人を唸らせました。

ビゴー「日本素描集」より

冒頭の「武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である」の一文は、本居宣長が詠んだ「しきしまの大和心を人とはば朝日に匂う山桜花」と同様に、日本人のアイデンティティを明らかにする名文です。

政治経済ともに混迷を深め、いまや凋落に向かっている日本。しかし、それに絶望する前に、令和の我々がもう一度この書を読み、「日本人であること」を再認識することも、決して無益な行為ではないように思えます。

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