岩波文庫解説目録2022に掲載されている、青帯(日本思想)の3冊を紹介します。
今回は近代日本の成熟の過程を知るうえで欠かせない名著が並びます。
1冊目は「憲法義解」です。伊藤博文が著した大日本帝国憲法及び(旧)皇室典範の逐条解説書であり、帝国憲法や当時の日本の思想を理解するための重要な資料です。
伊藤博文は、憲法起草の一翼を担い、憲法案と皇室典範案を1888年に完成。この際、各条文の解説を含む説明書が作成され、枢密院での法案審議に使用されました。後にこの説明書は『大日本帝国憲法義解』・『皇室典範義解』と題され、公刊されています。
この『帝国憲法皇室典範義解』は版を重ね、1935年の増補版からは「憲法義解」の文字が入り、宮沢俊義によって岩波文庫で出版されました。この著作は、憲法の理解や解釈において不可欠な文献であり、その重要性は現代においても変わりません。
憲法義解は、憲法の起草者や法学者による綿密な審査を経て完成され、憲法の解釈において大きな役割を果たしています。
ちなみに、かなり多くの方が日本国憲法は目にしているでしょうが、大日本帝国憲法を読んだことがある方は少ないと思いますので、注釈付きで味わえる本書はぜひ手にして頂きたいです。
2冊目は、明治の史学者・経済学者・政治家・実業家の田口卯吉(安政2〈1855〉年 – 明治38〈1905〉年)が著した歴史書、「日本開化小史」。
ギゾー(1787年 – 1874年)の『ヨーロッパ文明史』、パックル(1821年 – 1862年)の『イギリス文明史』を参考にし、かつ「神皇正統記」のようなわが国特有の歴史書の書き振りにも立脚しています。
古代から明治維新までを描いていますが、経済や精神文化の相関関係に着目しているのが新しい。以後の日本の歴史著作のあり方に大きな影響を及ぼしました。
3冊目は、明治政府の大物外交官、陸奥宗光(天保15〈1844〉年- 明治30〈1897〉年)が著した回顧録。条約改正交渉や日清戦争という未曽有の難局で外務大臣を務めた陸奥の辣腕ぶりをしのぶことができます。
生前、陸奥はリアリストとして知られ、人格的にかなり酷薄なところもあったと言われますが、そういう人でなければ、帝国主義時代の欧米の怪物たちとまともな交渉などできなかったでしょう。
とにかくえげつない交渉の内幕暴露が多いです。昭和4年まで公刊されなかったと言いますから、発禁本のような扱いを受けていたことになります。
日本政府の外交戦略の洞察、朝鮮への進出の過程と謀略、三国干渉への苦慮などが克明に描かれ、近代史ファンにとってはまさに垂涎の一冊、第一級の史料です。