ケインとアベル
この本の作者 | ジェフリー・アーチャー
永井 淳(訳) |
この本の成立年 | 1979年 発表 |
この本の巻数 | 2巻 |
入手のしやすさ | ★★★☆☆ |
未成年推奨 | ★★★☆☆ |
総合感銘度 | ★★★★☆ |
旧約聖書に擬えた兄弟の運命の物語
旧約聖書『創世記』第4章に、とある兄弟のエピソードが語られています。
兄の名はカイン、弟の名はアベル。
聖書の上での話ですが、カインは人類最初の殺人者、嘘を吐いた者とされます。
で、どんなエピソードかと申しますと、
兄カインは農耕を行い、アベルは羊を放牧して暮らしていた。
ある日、2人はそれぞれの収穫物をヤハウェに捧げようとした。カインは農作物を、アベルは肥えた羊の初子を捧げたが、ヤハウェはアベルの供物にのみ目を留め、カインの供物は無視する。これに怒ったカインは、野原にアベルを誘い出して殺す(人類最初の殺人)。その後、ヤハウェはカインにアベルはどこへ行ったか尋ねるが、カインは知らないと答える(人類最初の嘘)。ヤハウェはカインの悪行を見抜いてこれを罰し、エデンの東にあるノドに彼を追放する。
大変有名なお話です。
エデンの東という象徴的な地名は、そのままジェームス・ディーン主演の映画のタイトルになりましたし、その映画の原作は、アメリカの文豪・ジョン・スタインベックの長編作品です。
さらに、カインとアベルの兄弟相克の関係をそのまま現代社会に置き換え、一編のスリリングな小説に仕立てた人に、イギリスの作家・ジェフリー・アーチャーがいます。
アーチャーは、政治家としてイギリスでは大変有名ですし、また作家として1980年代にヒット作を連発しました。21世紀になって、また創作意欲が盛んになり、新刊本の棚を賑わせたりしています。
私もアーチャーの大ファンで、彼の本はたいてい読んできました。
どの作品も、とにかく展開がスリリングで、かつ心理描写が巧みです。プロットも斬新なパターンが多く、今回取り上げる「ケインとアベル」は、2人のまるで違う人生模様がリアルタイムに別々に進行し、それがラストに向かって融合していくという、実力派ならではの書法です。
20世紀初頭、ポーランドとアメリカに2人の男子が誕生します。
ポーランドに生まれた方のヴワデグは、本当に悲惨な生い立ち。捨て子だったところを貧しい罠猟師に拾われ、育てられます。それでも彼は学業優秀で、やがて友人のレオン(貴族・ロスノフスキ男爵の子、実は腹違いの兄弟)の学友として彼の城で教育を受けます。
一方、アメリカに生まれた方のウィリアムは、大銀行家の御曹司、すなわち生まれながらのエリートでありました。
やがて、第一次世界大戦とポーランド・ソ連戦争が勃発し、ブワデグは最愛のロスノフスキ男爵、レオン、その姉フロレンティナを失ってしまいます。彼自身もソ連の強制収容所送りになりますが、何とか脱走。アメリカに逃れ、その後、ホテルチェーン経営者の信頼を得て、彼の下で頭角を現していきます。
その頃、ウィリアム・ケインの方も、タイタニック号事故で父親を失うなど不幸に見舞われますが、持ち前の能力により、アメリカでも有数の銀行の頭取にのし上がります。
ホテル界の雄と金融界の大エリート。
このふたりの出会いと壮絶な戦い、そしてお互いの子供たちを巻き込んだ渦のような人間絵巻が、アーチャーの見事な筆致によって描かれていきます。
80年代当時、この作品はものすごいヒットとなって、テレビドラマ化までされました。それがまた面白くて、テレビにかじりついたのを思い出します。
その頃のワクワクを思い出して、久しぶりに読み返そうと思ったところです。
その前にブログにしたためてみました。