シャーロック・ホームズの冒険を冒険する Chapter 2

ロングセラーの延原新潮版

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さて、前章で述べたとおり、イギリスの「ストランド・マガジン」に連載され、大評判となった「シャーロック・ホームズ・シリーズ」ですが、早くも1894(明治27)年には日本に輸入されています。ただし、「唇の曲がった男」1篇だけの紹介で、現在のようなまとまった形で短編集を読めるのは、1931(昭和6)年から1933(昭和8)年に刊行された『世界文学全集・ドイル全集』(改造社/全8巻)まで待たねばなりません。

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この全集の翻訳者の一人であり、早くからコナン・ドイル作品の紹介に熱心に取り組んでいたのが、延原謙(1892年9月1日 – 1977年6月21日)です。延原は、アガサ・クリスティをわが国で最初期に広めた翻訳書としても知られ、ヴァン・ダインやエラリー・クィーンの作品もいち早く取り上げています。まさに日本における海外ミステリの伝道者、大功労者と言っていいでしょう。

ただ、彼は「ドイル全集」に携わった後、しばらく翻訳の世界から離れてしまいます。それはおそらく政府が敵国文学を厳しく排斥していたためであろうと思われます。その間、彼は中国で事業を展開するものの、結局は敗戦で財産を失ってしまいました。

そのような挫折を味わった彼は再び翻訳界に舞い戻り、まだ悲惨な戦争の傷跡が残る1951年、推敲を究めた「シャーロック・ホームズ全集 (月曜書房 )」の出版という偉業を成し遂げます。全60篇をたったひとりで翻訳するというのは、当時としては画期的な仕事でした。

この全集は、早くも1953年から55年にかけ新潮社より文庫化され、大ベストセラー、21世紀の今日に至るまで再版される、超ロングセラーになります。

なお、この全集にはいわくと申しますか、大変有名なエピソードがあります。当時の文庫版には紙幅の制約があり、各編ともどうしても収録できない作品が出てきてしまいました。それらは8作あり、何と延原と新潮社はオリジナルには存在しない、「シャーロック・ホームズの叡智」という1冊にまとめてしまったのです。

オリジナルを尊重する今日では考えにくい処置ですが、戦後すぐにあって、多くの人が全60篇を漏れなく読めるようになったのは大きな功績と言えるでしょう。それに、前述の8編の抜けがあるにせよ、読んでいて何かとりわけ違和感が残るわけではありません。

何よりこのシリーズの良さは、文章の読みやすさ、格調の高さに尽きます。登場人物の会話など、やや文語調に傾くきらいはありますが、それがかえって19世紀英国の雰囲気を彷彿とさせるので、私はまずこの全集を第一に推薦したいと思います。

なお、延原はドイルにものすごく入れ込んでおり、ホームズが出てこない他のドイル・ミステリの翻訳も行っています。それらは「ドイル傑作集」としてまとめられ、ホームズ同様に格調高く、また読み手の好奇心をくすぐってやまない独特の語り口で、奇想天外なストーリーの数々を展開していきます。

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ホームズやワトスンのような傑出したキャラクターは出てきませんが、話の展開の面白さは傑出しています。またシャーロッキアンには有名な話ですが、The Lost Special(消えた臨時列車)とThe Man with the Watches(時計だらけの男)には、ホームズと思しき人物のセリフが現れ、古くからファンをときめかせています。

これらもぜひ余裕があれば、お読みいただきたいと思います。ホームズしか読んだことがないのではもったいない話です。

以上見てきたとおり、わが国では延原謙がコナン・ドイル作品の普及にとてつもない功績を果たしたのは明白ですが、実は延原自身にも「ミステリ作家」としての顔があることは、意外と知られていません。

さすがというべきか、ホームズ同様、文体の格調高さは読んでいて実に気持ちいいものです。確かに、世界の文豪であるドイルと比して内容を評価するのは酷ですが、有名翻訳者の等身大の姿が伺い知れるこれら作品集にはぜひ接して頂きたいものです。

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